強烈な日差しの中、患者さんもまばらでいつもより静かな動物病院に、
女性が慌ててかけこんできて、
見ると腕の中にはボストンテリアがぐったりした様子で抱かれていました。
目はうつろで立つことも出来ず、はぁはぁと息づかいが荒い。
この女性は犬の飼い主さんでパニックになっていました。
「近くのスーパーに用事があって車の中にほんの30分置いて戻ってみたらこの状態だった」
と話しました。
熱中症です。
院内が急にばたばたと忙しくなります。
ペットの熱中症は深刻な問題で、毎年夏のシーズンにはこの光景を何度も見ます。
昔は犬って外飼いで飼われてたわけだし暑さには強いはず、
なんて思ってる人もまだまだ多いと感じます。
それは全くの間違いで犬は人よりも熱中症になる確率が高いと断言出来ます。
そもそも犬は人のように汗をかくことが出来ません。
汗腺は肉球にしかないので体温調節をコントロールするのが難しいです。
なのでよくはぁはぁと口を開けて呼吸している犬を見かけることが多いと思いますが、
なんとか熱を逃がそうとしているのです。
汗をかくというのはとても重要で
体に熱を帯びやすい夏は体が感知して汗を流してこもった体の熱を発散しようとします。
暑くて汗をかくという行為は体を正常に保とうとする大事な機能なのです。
犬にはそれがありません。
また地面に近いほど体感温度は高く、
人より体高の低い犬はアスファルトの照り返しで火傷状態です。
昼間の散歩は以ての外、虐待とも言えるくらい犬には酷なものです。
室内だからとクーラーをつけないでいることも熱中症の原因のひとつになり得ます。
またクーラーをつけるにしても設定温度が高くては意味がありません。
人が感じるよりも犬はもっと暑がりで弱いと知ってほしいです。
幸いこのボストンテリアは一命を取り留めましたが、
そのまま亡くなってしまうケースは珍しいことではありません。
もしこのボストンテリアが高齢犬だったら、肥満犬だったら、
熱中症に対抗できる体力を持っていなかったと思います。
ほんの少しの間、が命取りです。
亡くなってからご自身を責める方ばかり見てきました。
水分補給、気温の管理、日頃の体調管理は飼い主さんにしか出来ません。
また首に冷たいバンダナを巻いたり水で濡らして着るメッシュタイプの犬の洋服、
毛を短くして熱がこもらないようにする等環境だけではなく飼い主さんが犬の性質を知り、
ペット自身ともう一度向き合うことが熱中症対策の第一歩になると考えます。